「運動・スポーツと健康づくり」の視点から人生100年時代を生き抜くヒントを探るCHALLENGE100の「100歳運動部」。今回はスポーツ社会学がご専門の鹿屋体育大学・川西正志教授に「動けるシニアになる方法」をお聞きしています。シリーズ2回目の本記事では、シニア期の上手な運動への関わり方についてお話を伺っています。
これからは「いくつになっても動ける」ことが「社会貢献」になる時代
ー 人生100年時代が本格的に到来すると、どんなことが課題になるとお考えですか。
多くの人が長生きする状況に社会保障が追い付いていけるかどうかが、大きな課題になるでしょう。いかに財政的な負担を抑えながら長生きを支える環境を整えるか、その両立は難題です。少子化により、高齢者を支える立場の生産年齢人口は減る一方ですから、単純に「みんな100歳でめでたい」ということには残念ながらなりません。
私はよくシニアの方々に言うのですが、ボランティア活動など外に向けた活動もいいけれど、まずは自分の体・自分の健康に目を向けてほしいと。自分がいつまでも自立して動けること、人に迷惑をかけずに日常生活を送れることの方がずっと大切なんです。シニア期に動ける体づくりに取り組むことは、もうそれだけで十分な「社会貢献」。元気でいることが若い世代の負担を減らし、財政の圧迫も抑えられるわけですから。
ー シニア期の体づくりでは、どんなことがポイントになりますか。
筋肉量が急速に落ちていく期間ですので、まずは筋肉を蓄えるための運動が大切です。それを怠るとどんどん動けなくなってしまいます。とはいえ重たいダンベルや本格的なマシンを使ったトレーニングはなかなかハードルの高いもの。そこで誰でも家で簡単にできる「貯筋運動」というものを勧めています。

川西先生を中心に鹿屋体育大学で普及推進に取り組んでいる「貯筋運動」。
ー 「貯筋」とはユニークなネーミングですね。どのようなプログラムなのでしょうか。
貯筋運動は鹿屋体育大学の前学長・福永哲夫氏が提唱したものです。自重(自分の体重)を利用した簡単な運動で、足腰や腹筋などを無理なく鍛えられるのが特徴。椅子に座ったままできるプログラムもあり、どんな人も取り組めるようになっています。

「貯筋運動」の例。
出典:鹿屋体育大学(2017)貯筋運動マニュアル.
福永哲夫監修(2006)貯筋運動指導者マニュアル, 保健同人社.
沢井史穂(2019)貯筋運動とは?(公財)健康・体力づくり事業財団編「貯筋運動」.
特に重点を置いているのが、自立した日常生活を送るために最も大事な足腰のトレーニング。「歩く」「階段をのぼる」「バランスを崩した時に体を立て直す」といった基本的な動作を支える筋力をつけ、貯える、まさに「貯筋」ができるように考えられた運動です。

川西先生も理事を務める一般財団法人 健康医療産業推進機構(http://hip.or.jp/)では「筋肉運動」の実施支援・普及推進事業を行っている。