ぶどうの歴史
ヨーロッパでワイン用に栽培、アメリカやアジアに渡ったぶどう
ぶどうは古くから栽培され、広く世界中で愛されているフルーツです。紀元前3000年ごろにはすでに、原産地であるコーカサス地方やカスピ海沿岸でぶどう栽培が行われていたとされます。地面に落ちたぶどうの実が発酵し、やがて美味な酒になることを見出した人々がワイン醸造のためにぶどう栽培を始めたのです。メソポタミア文明や古代エジプトにおいてもワインは珍重されていました。
ローマ帝国の時代にはさらにぶどう栽培は帝国各地に拡がっていきます。さらに中世へと時代が進むと、ワインは「キリストの血」として、神聖で貴重なものという宗教的な意味合いも獲得していきます。キリスト教の普及とともに、ヨーロッパ全土にワインが拡がっていったのでした。
17~18世紀には、ヨーロッパの列強がこぞって植民地獲得に乗り出します。彼らは南北アメリカ、北アメリカ、オーストラリアなど、入植先にぶどうの苗木を移植してワインづくりを始めました。こうしてぶどうは、ワインとともに世界へと広がっていったのです。
アメリカでは禁酒法の時代、「ノンアルコールワイン」として
ぶどうジュースを作り始め、やがて国民的飲料へ
今では老若男女誰にでも親しまれているぶどうジュースですが、紀元前から飲まれていたワインと異なり、歴史はそう古くはありません。製品としてのぶどうジュースが生まれたのは19世紀のこと。当時は禁酒法の運動が激化していました。しかし、キリスト教には聖餐式(せいさんしき)といって、ワインとパンはキリストの血と肉にたとえて参会者に分け与える儀式があります。そこで、ニュージャージー州のとある医師が、聖餐式に未発酵のワインを使えないかと考えました。1869年のことです。
ぶどうには天然の酵母が含まれており、放っておけばアルコール発酵してしまいます。そこで、自宅のぶどう園で収穫したぶどうを使って、搾った果汁を密閉した瓶に入れ、瓶ごと沸騰したお湯の中へ入れて殺菌することで発酵を防ぎました。この方法で、初めて保存可能なぶどうジュースができたのです。
こうして「未発酵のワイン」づくりに成功した医師は、教会の聖餐式に使うように牧師に薦め、教会への販売を始めます。やがて一般にも販売が広がり、外交晩餐会でワインの代わりにぶどうジュースが供されたことで、さらに驚異的な知名度を獲得します。こうしてぶどうジュースはアメリカの国民的飲料になり、世界各地でも親しまれるようになりました。

ぶどうの種類
ヨーロッパ、アメリカ、東アジアの品種がもとになり種類は1万種類以上!
ぶどうには世界各地にさまざまな品種が存在し、その種類は1万種類以上ともいわれています。現在栽培されている品種の多くは、中近東原産でヨーロッパに自生する「ヨーロッパブドウ」と、北アメリカを原産とする「アメリカブドウ」を交配したものがもとになっています。ヨーロッパブドウはワインの伝播とともに世界各地に運ばれ、交配を経て現地に根を張っていきました。アメリカブドウは独特の風味があることから、ワインの原料には向かないとされていましたが、反対にぶどうジュースの製造にはヨーロッパブドウよりも適しているといわれています。また、東アジアには「東アジア種群」が分布。日本の野生種としては、ヤマブドウやシラガブドウなどがあります。
日本では、ヨーロッパブドウがもとになった「甲州ぶどう」の栽培が、鎌倉時代初期に山梨県勝沼で始まっていたようです。
ぶどうの分類
原産
特徴
風味の特徴
主な品種
ヨーロッパブドウ
原産
中近東
特徴
ヨーロッパに自生する唯一の種。乾燥した気候とアルカリ性の土地によく育つ。雨にも寒さに弱い。
風味の特徴
皮は薄く実は柔らかく、果汁が多い。ワイン製造に適している。加熱すると異臭を発するため、ジュース製造には向かない。
主な品種
カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シャルドネ、甲州 など
アメリカブドウ
原産
北アメリカ
特徴
湿潤な気候でよく育ち、ヨーロッパブドウよりも寒さに強く、耐病性も強い。
風味の特徴
独特の香りをもち、特にヨーロッパのワイン専門家は嫌う傾向も。ヨーロッパブドウと比べてジュース製造には向いている。
主な品種
イザベラ、オータム・ロイヤル、カトーバ 、コンコード
東アジア種群
原産
アジア、ロシアなど
特徴
日本では15種類の野生ブドウの自生が確認されている。また、アジア大陸には中国を中心に、約40種の野生ブドウが確認され、日本の野生ブドウと同種または近縁種も確認されている。
主な品種
マンシュウヤマブドウ(アジア原産)、ヴィティス・コワネティアエ(和名ヤマブドウ/ロシア、日本、韓国原産)、ヴィティス・シラガイ(日本原産)など
品種は皮の色によって黒ぶどう、赤ぶどう、緑(白)ぶどうに分けられる
ぶどうの品種は果皮の色によって「黒」、「赤」、「緑(白)」の3つに分けることができます。未熟なうちは果皮の色は緑色ですが、成熟する過程で黒や赤の色素がつくられていきます。「緑(白)」系のぶどうは色素がつくられないため、熟しても果皮は緑色のままです。
-
黒ぶどう
ワイン用:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、シラー、グルナッシュなど
生食・ジュース用:巨峰、ピオーネ、コンコード、マスカット・ベリーAなど -
赤ぶどう
生食用:デラウェア、甲斐路、安芸クイーン、ロザリオ・ロッソ、ゴルビー、ルビーロマンなど
-
緑(白)ぶどう
ワイン用:シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングなど
生食・ジュース用:マスカットオブアレキサンドリア、シャインマスカット、ロザリオ・ビアンコなど
アメリカ生まれのジュース向き最高品種「コンコードグレープ」
ぶどうジュースに好適な栽培品種として代表的なものに「コンコードグレープ」が挙げられます。コンコードグレープはアメリカブドウの一種で、ニューイングランドの荒れた土壌で生育する野生種が祖先。南風が強く寒い砂地という環境下で強く育ち、美味しく実るよう長年試行錯誤を重ねた末に、マサチューセッツ州コンコード近郊で誕生しました。皮が厚く、種のサイズが大きいので生食にはあまり向きませんが、ポリフェノールが豊富で、味や香り、色合いがよく、ジュースやジャムの製造によく使われます。

ぶどうの生産
海外で生産されるぶどうは7割がワイン用
世界でのぶどうの生産量は約7,744万トン。果物の中ではバナナ(約1億1,328万トン)、りんご(約8,933万トン)に次いで第3位の生産量となっています※1。最大のぶどう生産国は中国で、イタリア、アメリカ合衆国、フランス、スペインが続きます。上位10国で、世界のぶどう生産量の70%を占めます。生産されたぶどうの半分近く、47%はワイン醸造用に使用されます。残りの36%が生食用、6%が果汁・ジュース用、8%がレーズン生産用に使われます※2。
※1 出典:国際連合食糧農業機関(FAO)
※2 出典:OIV, 2017 World Vitiviniculture Situation OIV Statistical Report on World Vitiviniculture(データは2015年)
世界のブドウ生産国ランキング
出典:国際連合食糧農業機関(FAO)
国 | 2016年生産量(t) | 脚注 |
---|---|---|
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14,842,680t(脚注:A) | A |
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8,201,914t | |
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7,097,723t | |
![]() |
6,247,034t | |
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5,934,239t(脚注:Im) | Im |
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4,000,000t | |
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2,590,000t | |
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2,473,588t(脚注:Im) | Im |
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2,450,021t(脚注:Im) | Im |
無印:公式データ
A:公式データ、半公式データ、推計を含む
Im:理論に基づくFAOの推計
日本のぶどう生産は9割が生食用
日本のぶどうジュース生産と輸入の動向
国内産の果汁の生産量はさほど多くはなく、圧倒的に輸入が多い状況です。主要な国内産果汁の生産量は、りんご約1万5,600トン、うんしゅうみかん約3,100トン、ぶどう約600トン、パイナップル約200トンとなっています(1/5濃縮換算)。
輸入果汁は、全体で2億1,000万ℓ。品目別ではオレンジ約6,700万ℓ、りんご約5,900万ℓ、ぶどう約2,970万ℓ、パイナップル約480ℓ。国内での生産、輸入ともに、りんご、オレンジ、ぶどうの果汁飲料がトップ3を占めます。
主要な国内産果汁の生産量(2016年|1/5濃縮換算)
出典:農林水産省生産局園芸作物課調べりんご | 15,569トン |
うんしゅうみかん | 3,147トン |
ぶどう | 573トン |
パイナップル | 154トン |
1/5濃縮果汁計 | 20,309トン |
日本における主要果汁の品目別輸入状況(2016年)
出典:財務省「貿易統計」オレンジ | 66,912,129ℓ |
りんご | 58,803,285ℓ |
ぶどう | 29,653,532ℓ |
パイナップル | 4,807,377ℓ |
果汁全体 | 210,317,942ℓ |











