人生100年時代を迎え、寿命が延びることはとても喜ばしいけれど、寝たきりで介護が必要だったり、病気でお医者さんのお世話にならないといけなかったり、健康なまま寿命を迎えることはなかなか難しいのが現状です。しかし、それは決して難しいことではないと語るのが、「薬だけに頼らない、食習慣の改善による病気の予防と健康維持」に向けた「ファイトケミカル食革命」(注)を提唱している麻布医院院長・髙橋弘先生。その健康メソッドを、この連載ではシリーズでお届けしていきます。第1回のテーマは「人間と死」について。死を医学的に読み解くことで、健康というものが見えてきます!
(注)「ファイトケミカル(phytochemical)」=ファイト(phyto)はギリシャ語で「植物」、ケミカル(chemical)は「化学」。植物が、強い紫外線を浴びたときに発生する活性酸素や害虫による危害などから身を守るために、自ら作り出す機能性成分を指す用語。人の健康にとっても有益な成分として注目されているが、人体の中では作り出せないため、野菜や果物から摂取することが必要。
生物にはもともと「死」は存在しなかった!?
医学の進歩とともに、これまで人間の寿命はどんどん延びてきました。そして、長寿を決める遺伝子や老化を進める遺伝子というのも、すでに線虫や動物レベルではある程度わかっていると髙橋先生は言います。
「老化というのは、そもそも細胞が分裂することによって起こる現象です。細胞は分裂していくと、染色体の端にあるテロメアが徐々に切れていって、最終的には寿命を迎えてしまいます」
しかし、じつは「死」が存在しない生物もいる、と先生は続けます。
「地球上の生命体というのは、すべて細菌から生まれました。細菌というのは、現在も何十億年前と同じ姿でいるんです。たとえば、シアノバクテリアという菌。夏になると皇居のお堀が緑色に濁りますが、あれは草が生えるのではなくて、このシアノバクテリアが増えるためです」
「細菌は1つの菌が2つになり、2つになった菌がまたそれぞれ2つになっていきます。あるものが死んだとしても、分裂していった菌は最初のものとまったく同じ遺伝子ですから、『別の自分』は生きていることになる。そうやって細胞分裂を続けていくので、『同じ遺伝子がずっと生き続ける』という意味で細菌には『死』がないんです」
「死というのは、人間のような多細胞生物が登場して生まれた概念。生殖をして『自分とは別の遺伝子を持った存在』としての子どもを産む形で命をつなぐことが始まった結果、個体に死が訪れるようになったのです」